共同代表 飯尾裕光が考える、暮らしの朝市

飯尾 裕光
Profile
1975年生まれ。愛知県津島市「自然食品・天然雑貨のお店 株式会社りんねしゃ(1979年創業)」の2代目として日本の有機農業自然食運動の変遷を、幼少期から体験し、里山の農と食と暮らしに魅了される。
2006年にオーガニックカフェを創業し、2014年より都市近郊型体験農園を運営、事業の拡大を機に2020年農業法人「株式会社みんパタプロジェクト」設立。また、2008年から北海道紋別郡滝上町で多面的農業を学ぶ循環型農場を設立し、愛知と北海道の二拠点で、農場運営とアウトドアフィールドでの食と農に関わるアグリビジネスを展開。
県内で月8回程度の朝市を定期開催している、朝市運営の専門家でもある。

子どもの頃から自然の中で農業を中心とした暮らしてきたけど、両親が会社経営をしていたこともあって、農と商の両方の感覚が自然と身についていたと思う。幼少期からの学びと実践の中で、農業や自然は「多様性・公平性・多層性」の3つが揃わないと、持続性が失われるという事を理解した。持続可能な社会っていうのは、このバランスが常に均衡を保っている状態のことで、自然の摂理。
農業者として、産直の機会を作りたいと思ったとき、もともと日本の「朝市」という場には歴史もあるし、どの世代でも自然に参加できる「多様性・公平性・多層性」がすで組み込まれているから、とても意味があると思ったから、朝市の運営をやろうと思った。「マルシェ」という呼び方も普及してきたころだったけど、言葉としてのおしゃれさよりも、誰にでも伝わって、受け継がれてきた文化としての「朝市」の強さを大事にしたかった。そうした場を現代に引き継ぐ意味でも、「手づくりの人たちが集まれる場所をつくろう」という思いで、てづくり朝市を始めた。「自分で作って、自分で売る」。朝市は搾取や支配じゃなくて、みんなが持続的に関われる仕組みでありたいと思ってる。

暮らしの朝市は、“マイニング”(掘り起こす)だと思う。なにか新しいものを作っているわけじゃない。埋もれてしまった価値、でも本当はずっとそこにあった大切なものを、改めて掘り起こし、再発見する行為だと思う。暮らしの中にあった貨幣化されない「内部経済」、たとえば家事や家庭菜園、大切に使う事、子どもを育てる事は、どんどん外部化されていって、お金で買うものになった。その結果、「やらなくてもいいこと」が増え、社会の収益は上がったかもしれない。けど、何か大切なものが失われたんじゃないか。
朝市は、それを再び見つけ出す場所。個人が埋もれてた技や感性を関係性の中で再発見し、それを形にして世に出して、他の誰かが受け取ってくれる。たとえば、子どもの頃から折り紙が好きで、すごく精度の高い作品をつくれる人がいたとして、朝市でそれを100円で売ったら、誰かが買ってくれた。収益としての100円には価値がないように思えるけど、その100円には、個性や人格、その価値観などの評価とつながりと、存在の証明が全部詰まってる。だからこそ、「誰かにとっての必要」が「評価」となって、受け取られていく場としての「朝市」が必要なんだ。

暮らしの朝市は、次のフェーズに入ってきている。
10年続けて確信したのは「この場所を必要としている人たちがいる」ということ。コロナの大変な時期でも、多くの出店者が辞めずに継続開催を求めた。
「自分で作ったものを自分で売りたい」という人たちが増えてきているのを感じる。最近では、この地域を越えて、ほかの場所からも「自分たちの地域でも朝市をやりたいが、運営アドバイスが欲しい」という相談を受けるようになった。この動きは10年で加速度的に広がっていくと思っている。
暮らしの朝市が生み出すうねりが、あたらしい「産業」として一つの社会的指標となって認知されていく。
今は各地の運営者が集い、産業の確立に向けて共に考える場もつくっている。今後、「全国朝市運営者会議」や「朝市サミット」のような場が全国で生まれていけば、朝市が、単なるイベントではなく、スーパーマーケット産業やデパート産業のように、一つの販売形態の新しい産業として社会に認められるようにしていきたいと思っている.